システムの詳しい説明

このページでは、「通行止め交通影響シミュレーター」で使用している モデルや計算ロジックの考え方を、できるだけやさしいことばで説明します。 数式よりも「どういう発想で動いているか」が伝わることを重視しています。

1. このシステムが目指しているもの

本システムは、通行止めや車線規制をしたときに、周辺道路の交通量がどのように変化するかを、 地図上で素早くイメージできるようにすることを目的としています。
本格的な交通シミュレーターのように細かい車両挙動まで再現するのではなく、 「どの道路にどのくらい流れが移るのか」を大まかに掴むことに特化した「軽量モデル」です。

想定している主な利用場面は次のとおりです。

  • 工事による通行止めの事前検討(どの規制案が一番影響が小さいかの比較)
  • 技術提案書や社内検討資料の「たたき台」としての交通量イメージ作成
  • 住民説明・社内説明の際の「影響イメージ」を共有する補助ツール

2. データとゾーンの考え方

計算の出発点は、ゾーンごとの「基準交通量」です。ゾーンとは、市町丁丁目などの小地域単位をイメージしてください。

本システムでは、おおまかに次のような情報を組み合わせて、ゾーンごとの交通量の土台を作っています。

  • 交通センサスなどの観測交通量データ(幹線道路の実測値)
  • 人口・産業・土地利用などの統計データ
  • 道路種別(国道・県道・市道など)とリンクごとの位置関係

これらをもとに、ゾーンごとに「どのくらい車が出入りしやすいか(発生・集中量)」を推定し、 それを道路ネットワーク上の区画(リンクのまとまり)に割り振ることで、 工事をしていない平常時の交通量分布を作ります。

3. 幹線道路と生活道路の役割分担

本システムでは、道路を大きく「幹線道路」と「生活道路」に分けて扱います。

幹線道路

幹線道路(国道・県道など)は、広い範囲の移動を担当する「太いパイプ」として扱います。
基準交通量からの減衰は小さく、ゾーンの外から入ってくる交通も多く受け持つ前提です。

生活道路

生活道路(市道・住宅地内の道路など)は、ゾーン内部の細かな移動や出入りを扱うイメージです。
幹線から離れるほど交通量が自然に減るように、距離に応じた「減衰」をかけています。

このように役割を分けることで、幹線は太く・生活道は細くという、現実に近い交通量のバランスを、 軽い計算で再現することを目指しています。

4. 時間帯と「魅力度」の考え方

交通量は時間帯によって大きく変化します。朝の通勤時間帯、夕方の帰宅・買い物時間帯など、 目的地の「引きつけられやすさ(魅力度)」も変わります。

本システムでは、ゾーンや施設の種類ごとに時間帯別の魅力度を設定し、次のような考え方で交通量を調整しています。

  • 朝ピーク(通勤・通学)では、住宅地 → 業務地・学校へ向かう流れを強める
  • 夕方〜夜は、業務地 → 住宅地、住宅地 → 商業施設への流れを強める
  • 施設の種類(大型商業施設・業務地・学校・物流拠点など)に応じて、魅力度の時間変化を変える

こうした魅力度を通して、単に「距離が近いから行く」のではなく、 時間帯ごとの人の動き方を、簡易的にモデル化しています。

5. 通行止め時の迂回の考え方

通行止めを設定すると、本システムは次のような流れで迂回を表現します。

  1. 通行止め区間を含むルートを通れないものとして扱う
  2. そのルートを通っていた交通量を、近くの幹線・代替ルートへ振り分ける
  3. 幹線と生活道路の役割分担や、距離による減衰ルールにもとづき、周辺区間の交通量を再計算する

実際のドライバーは、カーナビ・案内看板・土地勘などを頼りにさまざまな経路を選びますが、 本システムではそれらをすべて再現するのではなく、合理的な迂回が行われた場合の「平均的な挙動」を 表すことを目標にしています。

そのため、個々の車両の細かい動きではなく、道路区間ごとの通行量(台/日・台/時間など)の変化に着目したモデルになっています。

6. モデルの位置づけと限界

本システムのモデルは、次のような前提・割り切りを置いたうえで設計されています。

  • 走行速度や信号サイクル、渋滞波の伝播などは詳細には扱っていません
  • 歩行者や自転車交通は原則として含めず、自動車交通に焦点を当てています
  • 災害時のような極端な交通需要の変化は、現状のモデル範囲外です

その代わりに、「計算が速い」「ロジックを説明しやすい」「データの準備が少なくて済む」ことを重視しており、 現場での検討・説明のための簡易シミュレーターという位置づけになっています。

実際の交通管理計画を決定する際には、現地状況・安全面・運用上の制約なども必ずあわせて検討し、 必要に応じて詳細な検討(別途シミュレーションや現地調査)を行うことを前提としています。

7. 今後の拡張の方向性

今後は、以下のような方向でモデルの高度化・拡張を検討しています。

  • 対象エリアや対象時間帯の拡大
  • 物流交通・業務交通など、用途別の交通の扱いの追加
  • 現場や利用者からのフィードバックにもとづくパラメータ調整
  • 将来的な都市計画シミュレーション(人口・土地利用変化など)との連携

これらの拡張を行う際も、「現場で説明しやすい」「使う人が理解しやすい」ことを重視しながら、 一歩ずつモデルの精度と表現力を高めていく方針です。